大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)110号 判決

(ドイツ国)

原告

カール・チーグレル

(イタリー国)

原告

(旧商号モンテカチーニ・ソシエタ・ジェネラーレ・ペル・リンヅストリア・ミネラリア・エ・ヒミカ・アノニマ)

モンテカチーニ・エジソン・エス・ピイ・エイ

右両名代理人

中松澗之助

外五名

(アメリカ合衆国)

被告

サン・オイル・カムパニー

アメリカ合衆国

被告

アメリカン・ヴイスコウス・コーパレイシャン承継人

エフ・エム・シーコーポレイション

(アメリカ合衆国)

被告

アヴイサン・コーパレイシャン

右三名代理人

佐々井弥太郎

外一名

被告

(旧商号新日本窒素肥料株式会社)

チッソ株式会社

代理人

秋山礼三

被告

徳山曹達株式会社

代理人

品川澄雄

斎藤二郎

(アメリカ合衆国)

被告

イーストマン・コダック・カンパニー

代理人

湯浅恭三

外六名

主文

特許庁が、昭和三十九年七月二十一日、同庁昭和三五年審判第五八五号事件、昭和三六年審判第三三一号事件、昭和三七年審判第三号事件及び同年審判第二五六三号事件の併合審判事件についてした審決は、取り消す。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

この判決に対する上告のための付加期間を九十日とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、第一、二項主文同旨の判決を求め、各被告らの訴訴訟代理人は、いずれも「原告の請求は棄却する。訴訟費用は原告両名の負担とする」旨の判決を求めた。

第二  原告両名の請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告サン・オイル・カンパニー、アメリカン・ヴイスコウス・コーパレイシャン(のちに、千九百六十三年(昭和三十八年)八月五日被告エフ・エム・シー・コーポレイションに吸収合併された。)および被告アヴィサン・コーパレイシャンは昭和三十五年十二月十七日、被告チッソ株式会社(当時の商号は新日本窒素株式会社であつたが、昭和四十年一月一日現商号に変更した。)は昭和三十六年六月二十日、被告徳山曹達株式会社は昭和三十七年一月九日、被告イーストマン・コダック・カンパニーは昭和三十七年十月二十六日、いずれも特許庁に対し、原告両名の権利に属し、名称を「オレフインの高分子線状ポリマーの製法」とする登録第二五一、八四六号特許について、特許無効の審判を請求し、前三者の請求の分については昭和三五年審判第五八五号事件、被告チッソ株式会社請求の分については昭和三六年審判第三三一号事件、被告徳山曹達株式会社請求の分については昭和三七年審判第三号事件、被告イーストマン・コダック・カンパニーの請求の分については同年審判第二、五六三号事件として係属したが、右各審判事件を併合して審理された結果、昭和三十九年七月二十一日「本件特許を無効とする。」旨の審決があり、その謄本は同年七月二十三日原告らに送達された。

二  本件特許発明の要旨

プロピレンまたはプロピレンとエチレンとの混合物を、(A)チタンの塩化物、臭化物または沃化物と、(B)一般式R'R''A1R'''(式中R'およびR''は低級アルキル基、R'''は低級アルキル基水素、ハロゲンまたはアルコキシ基である。)を有するアルミニウムの有機金属化合物とを反応させて得た触媒の存在で、有機不活性溶剤中で重合させることを特徴とする一〇、〇〇〇以上の平均分子量を有するプロピレンまたはプロピレンとエチレンとの混合物の線状で主として非分岐の頭尾ポリマーの製法。

三  本件審決理由の要点

本件審決は、本件発明の要旨を、「少くとも三個の炭素原子を有する一般式

R−CH=CH2

(式中Rはアルキル・シクロアルキルまたはアリルである。)のオレフィンの、殊に プロピレン・n―プテン―l,n―ペンテンl,n―/ヘキセン―l及びスチロールのような dオレフィンの線状で主として非分岐の頭尾ポリマーで、

一般的構造式

―CH2―CHR―CH2―CHR―

のもの、これらオレフィン相互の混合物またはこれらオレフィンとエチレンとの混合物のポリマーで、平均分子量一〇、〇〇〇以上のものを製造する方法において、トリウムとウランを含めて周期律第四〜六A族金属のハロゲン化合物を周期律第二、三族の金属かそれらの金属の合金または周期律第一〜三族の金属水素化物もしくは金属有機化合物と反応させて得た触媒の存在で、有機不活性溶剤中で前記オレフィン類を重合させることを特徴とする、オレフィンの高分子線状ポリマーの製法」(以下「訂正前の発明要旨」という。)にあると認定したうえ、そのうちには本件特許明細書中に開示された技術および本件出願時の技術水準によつてはどうしても実施することができない触媒系が存在するといわざるを得ず、したがつて、このような発明にとどまる本件発明は、旧特許法(大正十年四月三十日法律第九十六号)第一条にいう発明に該当しないというべきであり、結局、本件特許は同法第一条の規定に違反して付与されているから、同法第五十七条第一項第一号に該当し、無効とすべきものであるとしている。

四  本件審決を取り消すべき事由

本件判決は、次の点において判断を誤つた違法のあることに帰し、取消を免れない。すなわ、

1  本件発明の要旨は、昭和三十年六月八日出願当時においては、前記「訂正前の発明要旨」の記載のとおりであつたことは争わないが、原告は、昭和四十一年十二月二十七日、特許法(昭和三十四年四月十三日法律第百二十一号)第百二十六条の規定に基づき、本件特許発明の明細書を訂正明細書(詳細省略、甲第十二号証参照)記載のとおり訂正する旨の審判を請求し、昭和四一年審判第九、二二九号事件として係属し、昭和四十二年十一月十八日特許審判請求公告(特許審判請求公告第一八七号)がされたところ、三井石油化学工業株式会社は昭和四十三年一月十六日、イーストマン・コダック・カンパニーおよびチッソ株式会社は、同年一月十八日、それぞれ訂正異議の申立をし、審理の結果、昭和四十四年八月十八日、本件特許発明の明細書を前記訂正明細書のとおり訂正すべきものとする旨の審決がありその謄本は同年九月一日原告らに送達された。

2  右の結果、本件特許発明の明細書は、特許法第百二十八条の規定により、前記訂正明細書(甲第十二号証参照)のとおり訂正され、その訂正された内容によつて、特許権の設定の登録がされたものとみなされるのである。

前記訂正明細書によると、本件発明の要旨(特許請求の範囲)は、前記第二項記載のとおりであり、本件審決が本件発明を無効とした事由、すなわち、本件発明の明細書の記載により開示された技術および本願出願当時の技術水準によつては実施することができないとされていた触媒系はすべて除去されたことになる。

3  したがつて、本件審決は、結局、本件発明の要旨に包含されていない触媒系を包含されているものとして、判断をしたに帰し、本件発明の要旨の認定を誤り、これを前提として前記結論を導いたものである。

第三  各被告らの答弁

原告の主張事実は、すべて認める。

第四  証拠関係〈略〉

理由

原告が本訴請求の原因として主張する事実は、すべて各被告において争わないところであり、これらの事実によれば、本件審決が本件発明の要旨の認定を誤り、これを前提として結論を導いたものであり、この点において判断を誤つた違法があることは、明らかであるから、原告の本訴請求は理由があるものということができる。よつて、原告の本訴請求は、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八十九条、第九十三条を、上訴のための付加期間につき同法第百五十八条第二項を各適用して、主文のとおり、判決する。(服部高顕 三宅正雄 奈良次郎)

A成分

B成分

A(g)―B(g)

固型ポリプロピレンの

生成の有無

TiCl4

Ba

3.9―6.9

なし

TiCl4

CaH2

3.9―2.1

TiCl4

PhHgBr

3.9―17.9

TiBr4

NaH

7.4―1.2

TiBr4

EtAlCl2

7.4―6.4

Ti(OBu)2Cl2

Ba

5.2―6.9

Ti(OBu)2Cl2

CaH2

5.2―2.1

Ti(OBu)2Cl2

phHgBr

5.2―17.9

Cr2O2Cl2

Ba

3.1―6.9

Cr2O2Cl2

NaH

3.1―1.2

Cr2O2Cl2

EtAlCl2

3.1―6.4

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